高鳥谷山は低い山ですが伊那市からよく目立ち、地元の産土神を祀る山として愛されています。 麓には古くから人々が住み着き、大なり小なり色々な話が残されています。
むかし、高鳥谷山のふもとの北林に井上掃部という人が住んでいた。掃部は新山の谷川を上って狩りに出かけたが、イノシシを追っているうちに道に迷ってしまった。そのうえ大雨に遭い、三日三晩も岩陰に閉じこめられた。 ようやく雨は止んだが、家のある方向が分からず、食べ物もなくなり、途方にくれておった。 「そうだ、猿田彦の神様におすがりしよう」 猿田彦は天狗のようなかっこうをしているが、道案内の神様だ。掃部が熱心に猿田彦を拝むと、目の前のやぶにバサッとヤマドリが一羽舞い降りてきた。 掃部は急に狩人の欲が湧いてきて、弓に矢をつがえた。しかしヤマドリはすぐに飛び立って向こうの木の枝に止まった。掃部が近づくとまた飛んで、今度は岩の頭に。掃部はまるでヤマドリにからかわれているように、山を越え、谷を下っていく。 やがて見覚えのある谷川の丸木橋まで来たとき、ヤマドリの姿は消えた。掃部の家はすぐ近くだった。 「ああそうだったのか。猿田彦の神様がヤマドリに道案内をさせて下さったのだ」 無事にわが家に帰った掃部は、さっそく高鳥谷山の頂に小さな祠を作って、猿田彦の神様を祀ったという。
信州の民話伝説集成 南信編(出版 – 一草舎出版 2005年) 152-153頁より引用
高鳥谷山の麓で、弓矢で動物を狙う話しとして「真菰が池のオシドリ」と共通点を持っています。 そのような生活がいかにこの地域で一般的であったのかが、よくわかりますね。